出逢いと食の密接な関係
今回は「料理で感動を与えるシェフ」として名高い、下村浩司シェフをゲストでお迎えしました。「エディション・コウジシモムラ」は、2009年度版ミシュランガイド東京において2つ星を獲得し、「既成概念にとらわれずに再構築された料理は、常に驚きと感動を与えてくれる」と、各界の著名人がこぞって来店する人気店。東京のフレンチを語るのに外せないお店とも言われています。世界中の一流の方と、数多く接してきた下村シェフに、「出逢いと食の密接な関係」についてお話をうかがいました。
目次
「人間性を高める」結婚相談所の活用
聞き手
サンセリテの会員さまの中には、デートの場としてフレンチレストランを選ばれる方が多くいらっしゃいます。お仕事柄、下村さんはたくさんの方々と出逢い、そして様々なカップルをご覧になっていると思いますが、結婚相談所に対して、どのような印象をお持ちでしょうか。
下村
僕自身は結婚するために結婚相談所へ行くとう発想はなかったけれど、いろいろな人と出逢える場があるというのはいいですよね。僕のお店でも、サンセリテさんのパーティーのお手伝いをさせていただいたことがありますが、一度にさまざまな価値観、業種、考えの人と出逢えるパーティーはとてもいいことだと思いますよ。今、日本の男性は控えめでしょう。男たるもの、なるべくたくさんの価値観を持つ人や様々な職業に就く人と出逢って人間性を磨いていくべきだと思います。
川部
確かに、パーティーでは限られた時間の中で大変多くの方と出逢えますね。
下村
1対1で出逢うのとは違って、たくさんの人の中で出逢った場合、また異なる視点で相手を見極めることができますよね。同じ質問をしても、人それぞれ反応が違ったり、初対面の人とお話しするときは、誰でも緊張するものです。でも、チャンスをものにするためには、人と話すことに慣れること。それにはパーティーを活用した方がいいと思いますよ。
川部
パーティーは異性のことも多方面から見られると同時に、女性会員さまにとっては「何てきれいな女性が多いんだろう」と感じる。自分磨きの機会にもなっていることが多いんです。
お見合いもレストランも、出逢いは「一期一会」
聞き手
パーティーでもお見合いでも、第一印象というのは大切ですが、食事の場で気をつけるべきマナーというのはありますか?
下村
よく、フレンチというと堅苦しく考えて細かなマナーを気にする人がいるけれど、食事はあくまでも楽しむものなので、あまり頭でっかちに考えない方がいいです。ただ、周囲への気遣い、気配りは必要です。たとえばグループで食事に行ったとしても、一人だけ食べるのが遅い人がいたとする。そうすると、ある程度の店であれば一番遅い人に合わせてサーブされるものなので、グループ全体の食事がストップしてしまい、間があいてしまう。そういうことに気が付ける人は、印象もいいですね。
川部
お見合いパーティーは、その時の印象が後に続くかどうかにつながるので、気持ちのよい配慮をお互いに持てるといいですよね。
下村
相性がいい人って、会った瞬間に「この人だ」と思うものでしょう?お見合いでも仕事でも、人間同士の出逢いは全て「一期一会」です。それはレストランでも同じで、料理やサービスを提供するのはその都度1回勝負。どんな点に気を配れるか、お客様に満足いただけたかを気にかけつつ相性を試すという意味では、お見合いもレストランも、常に「一期一会」ですよ。
仕事ばかりの男性には、視野を広げてくれる女性
聞き手
下村さんは結婚そのものについて、どうお考えですか?
下村
落ち着くところができるのはいいですね。ホッとできるところというか。好みはそれぞれでしょうから。家庭でも適度な緊張感を持ちたいという方もいらっしゃるでしょうが。
川部
結婚相談所では、相手のプロフィールを予めデータとして見られることが特徴なんです。
下村
例えば、婚活する人の中には「お金がある人ならば、とりあえず会ってみよう」という人もいるかもしれません。けれども、それだけ(お金だけ)というのはさびしいですね。相手の「データ」ばかりにとらわれるのではなく、それはひとつのきっかけとして、休日にはどんな過ごし方ができるかどうか、2~3時間の食事の場でいろいろ見ないと。とは言え、結婚を考えるにあたってお金の使い方は、気の使い方と同様に大切な要素だと思うんです。僕がもしも今、結婚するとしたら、やはりいろいろ考えるでしょうね。
川部
男女のお付き合いの中で、「これだけはだめ」」ということはありますか?
下村
「仕事とプライベート、どちらが大切か」と考えたり、ましてやそれを口に出して相手に聞くのはだめでしょうね。男女問わず、仕事を通じて能力を認められ、人間的な評価を受ける時代ですから、すべてが仕事であり、プライベートであるという風に考えなくては。
川部
でも「常に仕事のことしか考えていなかったら、女性は寂しく感じますよ」とアドバイスする事がありますよ、私。
下村
仕事だけの男性に、違う考え方や価値観、楽しいことなどを上手に伝えられる女性は魅力的だと思うんです。お互いに高めあう、視野を広げることは良い仕事にもつながります。僕の中では、仕事がうまくいくから家庭がうまくいく、という思いは強いんです。結婚後には、夫婦のどっちががんばっているとか比べても仕方がないですよ。
川部
確かに「どちらが忙しいか」という夫婦げんかは不毛ですね。
下村
それと、出逢いの場では自分の得意分野を出していかなくちゃ。料理人の中には、料理を通じて自分の個性を表現している人もいます。「こんなに気の弱そうな人が、こんなに力強い料理を出すの!?」と驚かされたり。出逢いの場も、得意分野で勝負すれば自分の強みが出せますよ。
自身の領域を広げる、レストランでの経験値
聞き手
食事の場でのスマートな振る舞いは、どのようにして身につけたらよろしいでしょうか?
下村
とにかく、どんどんレストランを使って経験値をあげることに尽きます。男性は、仕事の上でもいずれ接待をするホスト側になるだろうと考えたら、プライベートでもうちのようなお店で経験値を積んだ方がいいと思うんです。場慣れしていない人はすぐわかります。でも頭でっかちになりすぎず、「どうしたらお互い楽しく食べられるか」を考えてもらいたいですね。
川部
男性は、デートの中でレストランを選ぶ機会も多いですし、場慣れは必要ですよね。「女性の方から何を食べたいか聞いたら、男性が良い顔をしなかった」、「お金の支払い方がスマートにできない」といったご相談を受けることがあるのですが…。
下村
川部さんがおっしゃっているような悩みは、「どれが正しい」とは言い切れないものもありますよね。お互いの好みの領域になってしまって。女性から食べたいものをはっきり言われた方が好ましく感じる男性もいるだろうし、その逆もいるでしょう。お金の支払い方については……まぁ、ある程度のマナーはあるでしょうけれど。
聞き手
スマートな支払い方について、具体的に教えていただけませんか?
下村
会計の際に、伝票の金額を見るときはチラッとがスマート。あまり良くないのは、女性の目の前でお札を数えながら払う男性でしょうね。カジュアルな店の場合、レジで金額を言うことがあるけれど、それは店側の配慮が欠けていますよね。でも、そこで聞かないふりをする女性は好感が持てます。支払いの場って、男性ばかりでなく女性の態度も見られているものなんですよ。僕のお店では、女性の目の前で会計しなくてもいいように、テーブルからトイレに向かう動線上にレジがあります。そういうのをスマートに使いこなせるようになるには、やはり経験がものを言います。
食事はコミュニケーションを楽しむ場
川部
レストランマナーの悩みというと、ワインの選び方などを気になさる男性会員さまが結構いらっしゃるのですが……。
下村
それはもう、ソムリエをぜひ活用してください。何もわからなかったとしても、恥ずかしいことはありません。その日の料理にあわせて、ソムリエが最適なワインをご提案する。そのやりとりやコミュニケーションも、レストランを楽しむ要素の一つなんです。
聞き手
その他、レストランの上手な使い方について教えていただけますか。
下村
まず、デートのときにお店での待ち合わせはしないこと。駅からお店まで少し歩くとかして、お店に来るまで少し歩くとかして、お店に来るまでに2人がなじんでいないといけません。僕は「この人とどうしたらいいか」と悩むときには、レストランに行く前に喫茶店などのワンクッションをおくことにしています。少しなじんだ状態で食事をしないと、食事そのものも楽しめないしぎこちない場になってしまいます。 食事は食を通じてコミュニケーションを楽しむ場であり、ひいては相手の人間性を垣間見られる場でもあるんです。楽しく互いの人間性を知ることができる、貴重なシチュエーションですね。コミュニケーションと食というのは非常に密接につながっているんです。相手を理解するには食べ方、好み、何を食べたいかをはっきり言うか相手に任せるかなど、人となりが見えるものなんです。沈黙になったときに向こうから話をふってくれるか黙ったままかとか、気を使うか使わないかとか、すべて見えます。一番手っとり早く相手を知りたいなら、食事を共にすればいい。2~3時間でかなりの人間性が見えますから。
川部
フレンチレストランに詳しくない、と悩まれる方もいらっしゃるんですが…。
下村
結婚するときには男性がリードするものだと、僕は考えています。女性が陰で主導権を持っている人は多いでしょうが、それにしても男性は自分が知らないジャンルにいくよりは、自分の知っているカテゴリーに女性をリードしていった方がいい。だから、必ずしも「デートはフランス料理で」とかこだわらない方がいいですね。
川部
でもはじめから「居酒屋デート」というわけにも行きませんよね(笑)。
下村
まぁ、そうですよね。そのためにも、うちのようなお店での経験値は大切なんです。はじめは自分が一番勝負できるお店に行って無理をしない。2回目以降は普段の自分を見せるのがいいんじゃないでしょうか。これは男性に限らず、です。呼ばれた女性も気配り、マナーを問われます。でも臨機応変に対応することって、時間を何時間かともにしないとなかなか難しいですね。
「食」は結婚に至るまでに外せないシチュエーション
聞き手
男女問わず、初対面の異性と話すのは難しいという人も多いのですが…。
下村
話題に詰まっても「美味しい料理」という共通項で話がふくらむことがあるでしょう?味や素材はもちろん、料理の色調や器についての会話から相手の教養がわかったり、思わぬ共通の趣味を発見したり。
川部
えぇ。だからこそ、サンセリテではお料理や雰囲気にこだわった、パーティー会場をご用意するように努めているんです。
下村
食は会話のきっかけにもなるし、人間性が見えるという意味でも、結婚までに欠かせないシチュエーションですよね。夜景がきれいなレストランをセッティングするとか、雰囲気作りにおいても食事は大切な場です。
川部
下村さんのお店も、プロポーズで使われることも多いのではないですか?
下村
そうですね。初めてのデート、プロポーズ、両家の顔合わせ、結婚式の打ち上げなど、結婚に至る課程を当店を踏んで下さるお客様も多いです。そういう方は、その後も結婚記念日は必ずうちのお店にいらしたりして、長いおつきあいができるのが、僕としても嬉しいですね。
川部
プロポーズは「できるだけ印象に残ったものにしたい」と考える男性が多く、私もよくご相談を受けます。
下村
お客様で「プロポーズをするから、ここで花束を出してほしい」といったご依頼を受けたことは結構あります。そういうシチュエーション作りの場として、どんどんレストランを活用してほしいですね。お客様の「場」をどれだけ素敵な空間にできるかが、僕たちプロの仕事でもありますから。
聞き手
結婚に至るまでの過程を、レストランを活用して演出していくというのはいいですね。
下村
ぜひ皆さんも、デートにうちのお店にいらしてください(笑)
Guest Profile
下村 浩司(しもむら こうじ)
1967年、茨城県出身。22歳で渡仏。「ラ・コート・ドール」、「トロワグロ」など3つ星レストランを中心に8年間修業。帰国後、2001年より「レストランFEU」料理長に就任。2002年に世界的権威のある料理大会「ウェッジウッド・アワード」の日本代表にノミネートされ、2004年にはアラン・デュカス氏主催のフランス大使館パーティーにて絶賛される。2007年、「エディション・コウジ・シモムラ」をオープン。ミシュランガイド東京では2009年度版・2010年度版で2つ星を獲得している。